連載「トップホールディングス誕生物語」COLUMN
1964年に父が創業したトップ産業を引き継いで、2代目として歩んできた歴史をトップグループ3社設立とともに振り返り、2023年にグループを統括するホールディングス会社設立までを記した連載コラム「トップホールディングス誕生物語」。 多様な時代背景の中で生きた激動の歩みとトップグループの成り立ちが、お読みいただく皆様の未来につながることを祈りながらお届けします。
【第五章】現場はボロボロ。「会社が潰れる…」と感じた大事件
大きなターニングポイントとなった出来事。それは、お客様から絶大な支持を受けていた大ヒット商品へのクレームから始まりました。当時5万個以上売れた中でクレームが入ったのは数件でしたが、安全性にも関わる問題だったため、何か不具合があるのではないかと疑い始め、独自に検査機関に検査に出しました。するとその結果、一部で法律に準拠していないことが判明したのです。
私はすぐに商品を回収すべきだと考えましたが、役員からは「事故が起きているわけじゃない。回収をすれば会社が潰れてしまう。様子を見るべきだ」という意見も出て、社内の反応は分かれていました。
しかし、もし購入いただいた方やそのご家族に万が一のことがあれば、私自身がこれから生きていく価値はない、と感じました。命はお金にかえられません。反対する役員を「私の責任でやる」と強く押し切り、商品の回収へと踏み切りました。
損失額が非常に大きかったことはもちろんですが、それ以上に辛かったのは、現場が「壊れていく」ことです。「回収させてほしい」と販売先のお客様に頭を下げにいった営業社員が、「おたくとは二度と商売しない!」と非常に厳しいお叱りの言葉を受け、全ての取引を失い、どうしようもなく途方に暮れ泣きながら帰ってくるのです。そのボロボロになった姿に、胸がしめつけられました。
物流センターでは、返品された商品が倉庫の中に入りきらず、外にまで山のように積み上がっています。「ああ、会社が潰れる」という考えが、頭をよぎりました。
その時私たちを動かしていたのは、「消費者の方々を守ろう」という一心だったと思います。社員たちも、「正しいことをやる」というその気持ちだけをよりどころにやり切ってくれました。
幸い、大きな赤字を出しながらも、それまでの基盤があったおかげで経営が揺らぐことはありませんでした。一年半ほどたつと、取引停止になっていたお客様との関係も少しずつ復活していきました。
ある時、改めてお客様先にお詫びの訪問をした時、こう言われました。「実はあの時、トップ産業の判断は賞賛に値すると思っていた。社内では『全面的に協力しよう、これからもこういう誠実な会社を優先して取引しよう』という話になってたんや」と。そして、「組合員(消費者)を守ってくれてありがとう」と逆に頭を下げられたのです。感動で震えました。
また当時、取引停止を受け責任を感じていた営業社員も、取引再開後の会食で、お客様から「あの時は立場上、取引停止と言わざるを得なかった。ごめんな」と頭を下げられ、涙を流していました。失っていた取引も最終的には全て復活し、それどころか今まで以上の取引をいただくようになりました
商売で大切なのは目先の利益じゃない、と改めて実感した出来事でした。
守るべきは自分たちではなく消費者の方々。時間はかかっても、誠実さ、正直さを貫けばお客様は戻ってきてもらえる。その想いが信念として私の人生に染み付きました。
苦労をかけた社員には、感謝しかありません。だから、絶対に幸せにしたい。みんなで心をひとつに、楽しみながら仕事ができる会社にしたい。
そう思い、社内ではさまざまな取り組みをスタートさせました。